これまでの記事では、光や電子といった量子力学が扱うミクロな粒子が、波と粒子の両方の性質をもつ、いわゆる「波動と粒子の二重性」を示すことを紹介してきました。
量子力学も、他の自然科学と同じ「科学」の一分野です。
科学では、観測や実験から自然法則を見いだし、その内容を数式で定量的に表すことを目指します。
それでは、「波動と粒子の二重性」は、どのような数式で表現されるのでしょうか。
今回は、「量子力学の世界は、どんな数式で表現されるのか?」「そもそも、光や電子の”波の性質”とは、なんなのか?」を簡単に紹介します。
粒子の「波としてのふるまい」は、数学的には「波動関数」と呼ばれる関数で表現されます。
その波動関数が時間とともにどのように変化するか、どんな形になるかを決めるのが「シュレーディンガー方程式」です。
この方程式を解いて得られる波動関数は、「どの位置で粒子として観測されやすいか」を表す量になっています。
もう少し正確に言うと、波動関数の絶対値の2乗が、その場所で粒子を見つける確率の「密度」を表す、という規則があります。
この規則は「ボルンの規則」と呼ばれ、量子力学の基本的な仮定のひとつとして知られています。
現実のボールなら、摩擦や空気抵抗のために、最終的には谷底で静止すると考えられます。
そのため、「十分長い時間が経てば、谷底でボールを見つける確率はほぼ100%」と言えるでしょう。
しかし、「波動関数の二乗=存在確率」というルールに従う量子力学的な粒子の場合は、事情が大きく異なります。
量子力学的な存在の場合、仮に谷底で発見される確率が一番高いとしても、他の場所、例えば斜面の中間位置などで観測される確率もあります。
このように、量子力学の世界では、私たちの直感から大きく反する不思議な現象が起こりうるのです。
ここまでの記事を読んできたあなたには、
・量子力学の世界における粒子は「波動と粒子の二重性」という特性を持つこと
・波動の性質とは「粒子の存在確率」を示すこと
を、なんとなくイメージできているのではないでしょうか。
最後に、本記事で何度か登場した「存在確率」という言葉の意味を少し丁寧に整理しておきます。
一部の教科書では、「存在確率」の代わりに「発見確率」という表現を用います。
意味としては、この「発見確率」の方がより明快です。
以前に紹介した電子の二重スリット実験から分かるように、電子は粒子として存在するのではなく、波動として伝播しています。
要するに、二重スリット実験における電子は、「どちらのスリットを通ったかが決まっていない、2つの経路の重ね合わせ状態」にあると考えられます。
古典的な粒子のように「スリット1かスリット2のどちらか一方を通った」と割り切ることはできない、というのが量子力学的な見方です。
さらに、観測前の電子は「どこかひとつの場所に決まって存在している」のではなく、「様々な場所に同時に存在している」状態にあります。
このように、複数の場所・経路の可能性が重なり合った状態を「重ね合わせ状態」と呼びます。
ここで紹介した「重ね合わせ状態」や「波動関数の確率的な解釈」は量子力学に特有の性質です。
これらは、干渉や量子もつれとあわせて、量子コンピュータのような新しい情報技術の理論的な土台になっています。
また、重ね合わせや存在確率といった量子力学の基本概念は、私たちの常識とは大きく異なる世界像を示しています。
次の記事では、これらの考え方を象徴的に表した有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」を題材に、量子力学の世界観をもう少し丁寧に見ていきます。

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